私は素材と表現が密接に関わる工芸という領域の中で、陶芸家として作品を土で造形し窯で焼いています。
土の可塑性・重力の影響・焼成の化学反応という素材の特性は、自身の外側のものであり、自然界の物理的な摂理を想起させます。
私の制作は土を積層して少しづつ造形していくのですが、その過程をまるで環境や条件に合わせて少しづつ作品が成長しているように思っています。
その条件の中には自身の創意も含んでおり、乾燥による凝固と焼成による変化の中で、自身の情動や知覚が固定されていくように感じています。
また私は陶芸の一般的な形態である器を空間や境界という観念として捉えています。
ひも状の土を積み上げていく時、その断面の立ち上がりが生み出す空間に視線を配りながら制作は進みます。
こうして生まれた入り組んだ内部の造形は、私の視線を追体験する空間=器であると考えています。
この様に「陶芸」と「器」を自らの解釈の中で再定義し、今日性の表現を探求しながら活動しています。
山岸大祐(愛知県:1984~)は、今回選定した16人の中では最年少であるが、朝日陶芸展入選の他、期待の陶芸家を積極的に紹介する東京のINAXのガレリアセラミカで個展を開催するなど、最近少しづつ注目を浴び始めている。その作品は、やきものの中心的器形である壺を創作イメージの源泉としたものである。制作において、山岸は壺をイメージの出発点にすることで、やきものが内部空間を有する皮のような造形であるという根源的要素を造形に応用し、壺を構成する内部空間を意識させる造形的構造を導き出している。同時にそれは薄い土の皮による、従来の用途性を要する壺の概念を脱構築しながら、やきものにおける壺という器形を問いかける作品である。技術、表現ともに完成したものではないが、表現の方向性には、新しい視点でやきものの造形を追求する姿勢が窺える。
(現代陶芸の現在と可能性ー新進陶芸家による「東海現代陶芸の今」展開催にあたってー, 大長智弘(愛知県陶磁資料館), 新進陶芸家による「東海現代陶芸の今」図録, P10)
自然界に線はないといは19世紀末泰西の画家の言葉だが、厳密に言えば、絵画や彫刻にも線はない。しかし他方では、線は絵画や彫刻を構成する基本要素であるということも事実である。線は実態のないものとしてものの世界に存在するわけではないが、人間はそれなしには感覚される世界を認識することも表現することもできないということである。
〈線〉が表すのは元々の境界であり、形であり、方向であり、リズムであり、自立した形としては生命感であったりする。ある形態が生物の胚や骨や立ち姿のように見えるという場合には、それが有する〈線〉の要素に即して見ると、そのように見えるということである。
「線の行方」という言い方はだから、認識及び表現の方法として〈線〉の有り様を問われているのである。自然物や人工物の中に〈線〉を見出していきながら、他方でその〈線〉が自立して変化したり、成長したいったりする、それ自体を表そうとしているわけである。
土という素材は〈線〉の変化や成長を表すのに適っている。その発見がそのまま主題の発見に通じたのが山岸の創作である。
(土という素材は「線のゆくえ」を表すのに適っている。,笹山央(工芸評論家), TAIKI PLUS05 なんでもできる瀬戸の陶芸 P79)
現代陶芸においては、生命体を明示するような、あるいは生命を宿したような、有機的抽象表現がしばしばみられるが、それは近年においては、ことにバイオモルフィックな表現として、無視し得ない一つの特徴的傾向となってきているように思う。試みに思いつくまま近年の有機的抽象表現の受賞例をあげれば、2009年度日本陶芸協会賞の中島晴美、第56回ファエンツァ国際陶芸展グランプリ加藤智也、第5回益子陶芸大賞展加茂田章二賞の川端健太郎、第21回日本陶芸大賞展毎日新聞社賞の高津未央、第9回国際陶磁器展美濃陶芸部門銅賞の今野朋子と山岸大祐などがある。
(バイオモルフ 陶芸の有機的抽象表現, 渡辺誠一(岐阜県現代陶芸美術館副館長), 芸術批評誌リアP40)
山岸大祐の作品を前にした時に、人はある種の艶かしさを感じながら目を逸らすことが出来なくなるだろう。造形には、凹凸だけではなく内と外があり、さらに空気を孕んではためくような形状まで多くの要素が含まれているが、それは断絶することなく一続きになっており、視線はその流れを追うことになる。観者の感覚の共有を望む山岸は、巧みに表現に強弱をつけており、それはマチエールや無彩色といった選択、そして作品の正面性も強さに現れている。それ故に山岸の作品は、観者のうちにおいてイメージを無限に拡張していく。
(「虚構の約束」と曖昧さの美学、そしてつながるということ, 山口敦子(岐阜県現代陶芸美術館), 世界とつながる本当の方法 みて・きいて・かんじる陶芸図録 P74)
人間の身体の器官や、有機的な動植物の形態を想わせる作品は、陶芸のうつわも、私たちの身体も、同心円状の形でつくられているという考えに基づいて制作されてきました。
CTスキャンで見るように、人の身体は、脊髄を中心に輪切りにできる構造を持っています。一方、ろくろでの制作に見るように、うつわは伝統的に回転体を基本としてきました。山岸は、多くの作家が見逃してきた、この人と器の共通点を手掛かりに、生物と無機物との形の境界を乗り越えた先に、陶芸の形の原型を求めようとする、ダイナミックな思想を秘めた作品を展開しています。
( 北川智昭(豊田市文化振興課),とよたルミアール・プロジェクト#1プレスリリース)
瀬戸や多治見といった知られている窯業地に程近い豊田なわけだけど、正直なところ、そんなに豊田と焼き物って結びついていなかったけど、民芸館に足を運んでみたら、全然結びついているし、古窯群で知られる猿投という地名も豊田市内なことに驚いた。そんな猿投界隈に育った陶芸家である山岸くんなわけだけど、工房をのぞきに行くと、身近に焼き物がある環境でもなく普通に住宅街で、だけど小さい頃から焼き物が好きで、だけどこの近辺の産地ぽっくない
シャープな陶彫作品を制作していて、この「だけど」が積み重なった捻れみたいなのが実はこの人の作家性の面白さなのかもしれないなと思い始めたのでもう少し観察してみようと思う。
(中崎透(美術家), としのこえ、とちのうた。記録集 P23 )
入れ子状の壺型をベースにしながら、その薄い皮膜による袋状の形態を内包して食虫植物、エンブレムのような様々な形の歴史を想起させる作品。近年ではさらに激しく回転運動を加え、様々な要素間の相互力学による複雑系のカオスを孕んだ会期パターンを見せるものや、逆に安定した姿に展開している。陶芸による艶めかしくも緊張感のあるかたちの生成。
(天野一夫(豊田市文化振興課), 芸術の隣人たち 豊田気鋭のアーティスト展 キャプション )
1984 | 愛知県豊田市に生まれる |
2008 | 愛知教育大学大学院教育学研究科芸術教育専攻 修了 |
2008-09 | 瀬戸市にて陶磁器デザイナーとして勤務 |
2009−20 | 多治見市文化工房ギャラリーヴォイス勤務 |
2017 | アートマネジメントユニットSHIMAYAGI ART主催 |
招聘
2016 | Icheon Ceramics Festival(韓国・利川) |
公募展
2006 | 第44回朝日陶芸展 入選 |
2007 | 第45回朝日陶芸展 入選 |
2008 | 第8回国際陶磁器展美濃 入選 |
2011 | 第9回国際陶磁器展美濃 陶芸部門銅賞 |
2013 | 第1回陶美展 入選 |
2014 | 第10回国際陶磁器展美濃 陶芸部門 坂﨑重雄セラミックス賞 |
2016 | 現在の陶芸 萩大賞展IV 入選 |
2017 | the IX Biennial of Ceramics Vendrell 特別賞(スペイン) |
2019 | 第7回陶美展 入選 |
2021 | 第1回笠間陶芸大賞展 入選 |
個展
2007 | 山岸大祐展 -白壷の輪郭 花鳥のアーチ-(INAXガレリアセラミカ/東京) |
2009 | 山岸大祐展(赤坂乾ギャラリー/東京) |
2010 | 山岸大祐展(ギャラリー数寄/江南) |
2016 | とよたルミアール・プロジェクト #1 山岸大祐展(豊田市役所) |
2016 | 山岸大祐展(豊田画廊/豊田) |
2017 | 森のアート展 vol.1 陶芸家 山岸大祐(豊田市民芸の森) |
企画展
2006 | cera-mix 愛教大の造形(ギャラリー目黒陶芸館/四日市)('10'12) |
2007 | 愛教大の造形展(愛知県陶磁資料館/瀬戸)(–'12) |
2007 | フタのある形(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2007 | 日韓中現代陶芸-新世代の交感展(韓国工芸文化振興院/ソウル) |
2007 | やきものの現在 土から成るかたちPartⅣ(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2008 | 新進作家による―東海現代陶芸の今―展(愛知県陶磁資料館/瀬戸) |
2008 | WAVE 小塩薫/山岸大祐/笹井史恵(ギャラリー顕美子/名古屋) |
2008 | ガレリアセラミカの夏 器・小さなオブジェ・道具展(INAXガレリアセラミカ/東京) |
2008 | トッテのある形(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2009 | 田中知美 中島晴美 服部真紀子 山岸大祐展(ギャラリー数寄/江南) |
2009 | 10周年企画 好きなかたち(ギャラリー数寄/江南) |
2010 | フタのある形Ⅱ(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2012 | アーツチャレンジ 2012(愛知県美術館) |
2012 | わんの形(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2012 | やきものの現在 土から成るかたちPartⅩ(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2012 | MINO CERAMICS NOW 2012(岐阜県現代陶芸美術館) |
2012 | 第10回学校美術館(関特別支援学校 /関市) |
2013 | やきものの現在 土から成るかたち Return of ART FAIR TOKYO 2013(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2014 | 美濃陶芸の明日展2014(美濃焼ミュージアム)('15) |
2014 | 現代・陶芸現象 (茨城県陶芸美術館) |
2014 | 美濃陶磁100展(多治見市産業文化センター) |
2014 | 世界とつながる本当の方法 みて・きいて・かんじる陶芸 (岐阜県現代陶芸美術館) |
2015 | 愛知教育大学 陶とガラスの造形展(瀬戸市新世紀工芸館) |
2015 | 第10回パラミタ陶芸大賞展 (パラミタミュージアム/三重県) |
2015 | 燒けてかたまれ火の願ひ (多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2015 | Artist Presentation(豊田市民文化会館) |
2016 | よいの形(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2016 | Int'l Inter-local Workshop Exhibition(Icheon Ceramics Festival /韓国・利川) |
2017 | KOGEI のこれから(銀座三越/東京) |
2017 | Pray_Cherishing Life(Yeoju Dojasesang/韓国,European Ceramic Workcentre/オランダ) |
2018 | 古窯復元陶器と現代陶芸No.2(猿投棒の手ふれあい広場/豊田) |
2018 | 土の言の葉 part5 Structure 土の構造体(悠遊舎ギャラリー/刈谷) |
2019 | Chek in Counter Culture(TPAC/豊田) |
2019 | 次代を担うとよたのアーティストたち展(豊田市民文化会館) |
2019 | 土ノ言ノ葉part5 Structure 土の構造体(悠遊舎ギャラリー/刈谷) |
2019 | としのこえ、とちのうた。(旧豊田東高校) |
2019 | 好きなかたち展 増殖と装飾(ギャラリー数寄/江南) |
2020 | 好きなかたち展Ⅱ(ギャラリー数寄/江南) |
2021 | トッテのある形(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス) |
2021 | 好きなかたち展Ⅲ(ギャラリー数寄/江南) |
2021 | とよたまちなか芸術祭 toyota hybrid art exhibition(豊田画廊) |
2022 | 芸術の隣人たち 豊田気鋭のアーティスト展(豊田市民ギャラリー) |
アートフェア
2014 | ジ・アートフェア+プリュスウルトラ,ロイドワークスギャラリー(青山スパイラルホール/東京) |
2015 | ART FAIR TOKYO 2015,多治見市文化工房ギャラリーヴォイス(東京国際フォーラム) |
2021 | KOGEI Art Fair Kanazawa 2021,多治見市文化工房ギャラリーヴォイス(ハイアット セントリック金沢) |
コレクション
INAXライブミュージアム |
利川(韓国) |
El Vendrell(スペイン) |
豊田市 |
ワークショップ
2016 | Int'l Inter-local Workshopbrbr,Icheon Ceramics Festival(韓国・利川) |
2017 | エッグベーカーづくり,森のアート展(豊田市民芸の森) |
2017 | 山岸窯 豆皿づくり,On Stage!On High School(旧豊田東高等学校) |
2021 | 蕎麦猪口づくり,とよたまちなか芸術祭プレイベント(豊田市駅東口まちなか広場とよしば) |
2021 | 粘土を育てる?ツボオブジェ!,心を満たす、7つのアートプログラム(豊田市駅東口まちなか広場とよしば) |
SHIMAYAGI ARTとしての活動
2019 | ART DAYS TOYOTA 2019(豊田市美術館又日亭、豊田市民芸館、豊田市民芸の森)とよたデカスプロジェクト2019グランプリ受賞 |
2020 | 森のアート展vol.11 あとあとのいま(豊田市民芸の森) |
2020 | ART rental BOOK(オンラインサービス)とよたデカスプロジェクト2020入選 |
2022 | 木のあらわれ 木彫と木工(猿投棒の手ふれあい広場) |
その他
2012 | 多治見市制施工72周年功労者(学術または芸術の振興その他文化の向上に貢献)顕彰 |
2013 | 愛知教育大学教育学部造形文化コース特別講義 |
2015 | 愛知教育大学教育学部造形文化コース特別講義 |
平成27年度豊田市文化振興財団文化奨励賞受賞 | |
平成27年度(公財)とよしん育英財団助成選定 | |
2018 | 和洋女子大学日本文学文化学科文化芸術専攻非常勤講師(-'21) |
2019 | WE LOVE とよたフェスタ アート部門リーダー(-'21) |
2020 | 「とよたまちなか芸術祭」展示構成担当 |
2021 | 「とよたまちなか芸術祭2021」コーディネーター |
とよたオンライン公民館出演(現代陶芸レクチャー) |
器を観念的に捉えテーマにする。
また、土の造形に、自然の摂理や生物の成長のイメージを重ねながら、そこに自身の情動や知覚も組み込みながら制作する陶芸家。
1984年愛知県生まれ。
2008年に愛知教育大学大学院を修了後、愛知県瀬戸市にて制作をスタート。
2012年に愛知県豊田市に工房を構える。
’08年に愛知教育大学大学院を修了。’12年に豊田市に工房を構える。‘11 第9回国際陶磁器展美濃 銅賞。
’15 第10回パラミタ陶芸大賞展。企画展に’19年「としのこえ、とちのうた。」(旧豊田東高等学校)。陶による造形を制作。
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